モリノイエを体験|金子 瑠美さん

[小豆の家]
まっすぐに見つめる風景。【2/2】
RUMIKA代表

金子 瑠美さん

「気配」のデザイン

次の日【小豆の家】を訪れると、彼女たちはテラスで遅めの朝食の用意をしていた。やわらかな日差しと新緑に包まれるテラスに、心地よい初夏の風が吹く。

食材は来る途中の地元スーパーや道の駅で自由気ままに調達。「別荘地って遠くに行かないと何も買えないイメージがあるけど、ここは近くにレストランやスーパー、新鮮な野菜が並ぶ市場もあるんですね。出かけてみると便利な場所なのに、家に入ると人の気配から離れてリフレッシュできる。あと“都心から近いけれど、すごく違う場所”なところも好きです」。

彼女の言葉はシンプルで真っ直ぐで飾らず、そして時々小さな「発見」をくれる。

軽井沢に遊びに来ていた時、今まで彼女はホテルに泊まっていた。ホテルとここの大きな違いは「人の気配を感じないこと」だという。「窓から外を見ると、木々しか見えなくて。森の中にぽつんとある家みたい。窓から外を覗き込んではじめて、周辺の建物に気づくんです」。

実は【小豆の家】の大きな「仕掛け」の1つが「45度ずらした配置」だ。周囲の家の正面と45度ずらして建てることで目線をずらし、近隣の気配を感じないよう計算されている。そして最も時間を費やして熟考されているのが「窓」。座った時、立った時、窓から何が見えるか、何を感じるか、どこまでも「そこで過ごす人」の視点で仕上げられている。

作り手の想いに応えるかのように、必ずと言っていいほどゲストたちはそこに目を止める。「空間」というものを介した、建築家とゲストの対話を見ているような、不思議な気持ちになるのだ。

影のマジック

1日目の夕方、まだ明るいうちから、二人はワインを開けた。ゆっくりと落ちる陽を感じながら、久しぶりの再会と森の夜を堪能する。この家で一日を過ごした二人に、それぞれ気に入ったことをたずねてみると「木の影」と、同じ答えが返ってきた。

「朝、ヨガをしている時も、半地下の書斎で過ごす時も、木や植物の影が本当に美しくて」。彼女は愛おしそうに語る。「家全体が明るいわけじゃないのに、明るくあって欲しいところは明るく、昼は照明無しでも過ごせるんです。夜は間接照明のみで、キャンドルを付けてゆっくりワインを飲みました」。

4つのフロアに分かれる【小豆の家】は、空間の中に光と影が存在する。暗所から明所、狭い所から広い所、計算された導線と自然の陰影が、空間全体にリズムを与えているのだ。

「あと、時間の流れが違う」

今度は二人で声を揃えて言った。ここに来てから「今何時?」と何度も聞き合っているという。時計も見ず、たっぷりと寝てもいいし、起きてもいいし、好きに過ごそう、そんな時間が流れているのだという。

「別荘」のイメージ

「暖炉のあるログハウスで、ウッディな内装で、そして虫が多い」

今まで彼女は「別荘」というものにそんなイメージを抱いていた。「ここはそのイメージとは全く違いました。別荘というより家の延長のような感覚。虫も入ってこないですね」と笑った。

軽井沢の森では様々な生き物に出会う。イタチのような小動物、美しい声の鳥、蟻や蜘蛛など虫たちは一際大きく、のびのび生き生きとしている。【小豆の家】は、そんなありのままの自然を最前席で体感しながらも、建物としての気密性や機能性に守られていると感じる。ふと、どの季節に来ても室温を意識していないことに気づく。そこにも見えない「心地よさ」が隠れているのだ。

理想の別荘

もし別荘を持つとしたら?と聞くと「ここがいいです。このまま、ここがいい」と、彼女は笑いながら即答した。

「広すぎず、縦に重なる空間も心地良い。それにここはモダンなインテリアだけでなく、年齢を重ねて和にしたくなった時もきっと似合う。自分の人生や変化と一緒に成長できる家なんじゃないかなって」と、目を輝かせる。

縦方向への開放感を出しつつ、各階ごとに楽しみ方が異なる。引き戸を開け放てば、建物全体を1つの大きな空間のように感じることもできる。敷地の短所を感じさせず、長所を引き出す工夫が散りばめられた家。ここでは「広さは面積ではない」のだ。

1ヶ月ここにいたらどうなると思いますか?最後にたずねる。

「本当は今回、久々に二人で会うので色んな近況や悩みを話そうと思っていたんですけど」そう言って二人は顔を見合わせ「でも話さなかったんです。“ここでは言いたくないね”と、なんとなくお互いに。この綺麗な空気や景色や空間を汚したくないなと思って」と、笑い合った。

「だからきっと、1ヶ月ここにいたら心が洗われた人になるんじゃないかな」

彼女の言葉はやはりシンプルで真っ直ぐで飾らず、小さな「発見」をくれる。

Special thanks to RUMI KANEKO

The main character of this story
金子 瑠美
『RUMIKA』代表。熊本県出身。大村美容専門学校卒業後、都内有名店に新卒入社。以降17年間勤務し、雑誌撮影やヘアショー、セミナーなどで幅広く活躍しながら店⻑も担う。2021年、東京・中目黑にトータルビューティサロン【RUMIKA】、2024年【​​RUMIKA ATELIER】をオープン。セラピストが在籍し、髪だけでなくフェイシャル・ボディのメンテナンスも可能。30代女性を中心に、幅広い世代が来店する。


Instagram:@rumi_kaneko
写真:河内 彩 / 文:井上 望(sog株式会社)
Photo : Aya Kawachi / text : Nozomi Inoue(sog.inc)

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