木下 郁枝さん
軽井沢の朝は早い。
東の空から朝日が覆いかぶさるように浅間山を照らすころ、夏にはみずみずしい霧が、冬にはしんと澄みきった空気が、今か今かと目覚めを待ちわびている。
身支度もそこそこに、足を運ぶのは「発地市庭」。
新鮮な地の食材を求める人たちで連日賑わっている。高原野菜、きのこ、果物、地鶏、信州ポーク。軽井沢には一年を通じてどの季節にも「旬」がある。
冷たい水に葉物をさらす。
緑が一層鮮やかになり、生野菜がしゃきっと元気になる。オリーブ油、ヴィネガー、塩と胡椒を順番に入れて都度混ぜ、一枚一枚の葉にやさしく纏わせたものを、皿にふうわり盛る。
紫キャベツはいんげん豆とマリネに。
豆を水にひたしてしわを伸ばし、程よい硬さになるまで煮る。パスタを茹でるくらいの塩加減で紫キャベツを茹でる。檸檬、ヴィネガー、砂糖、塩であえ、オリーブ油を回しかけて味を調える。
種類が豊富なきのこは、季節を問わず軽井沢の食卓に並ぶ。山盛りのきのこを厚手の鍋に入れ、にんにく、唐辛子、エストラゴンを放り込んで塩をする。鍋底に薄く敷いた水と、同量のオリーブ油を回しかけ、火にかけて沸いたら蓋をして弱火で15 分。途中、優しく上下をかえし、塩を加えて味を見る。
料理と時間の関係は時代とともに変わりつつあるようだ。
例えばコンフィ。食材を油で覆うことで長期保存を可能にする技法だったが、現在では低温でじっくり火を入れるための調理法となった。かつて料理が担っていた悠久の時間は、今、鍋の中でコトコトと音を立てている。
たっぷりのオリーブ油に浸した里芋とローズマリーを100度のオーブンで60分コンフィにする。里芋を切って、フライパンで断面を香ばしく焼く。椎茸も一緒に焼く。塩をふって、皿に盛る。
メインは豚肩のオーブン焼きにビーツとプルーンを添えて。塩、オリーブ油、ハーブでマリネして一晩置いた塊肉と、ビーツを一緒にオーブンで焼く。肉を温かいところで休ませる。そのあいだに、ビーツをプルーンと一緒に、再び焼く。フライパンで肉に焼き目と香ばしさをつけ、粗塩を振る。
ワインはカリフォルニアの自然派ロゼ。
ふと、ラベルの鳥の鳴く声が聞こえたような気がする。
プルーンとビーツ
里芋のコンフィと焼き椎茸
ローズマリー
きのこのオイル煮
エストラゴン
紫キャベツといんげん豆のマリネ
葉っぱのサラダ
パン
ワイン ロゼ
Broc Cellars, Grenache Gris Rose (2018)
動画:COHDE 北本 達也
音楽:EIGHTY ONE 下元 善光
写真・文:阿部 研二
撮影場所:sumori-an